正義ってなんだ?
「正義」という言葉は日常でよく耳にします。ニュースでも政治でも、子どものケンカでも、そして漫画やアニメの世界でも。でも改めて「正義とは何か?」と問われると、すぐに答えるのは難しいのではないでしょうか。
正義は一つの真理なのか、それとも人の数だけ存在するものなのか。今回は、漫画の物語から医療や食、社会の出来事までを通して、正義のあり方を考えてみたいと思います。
医療の世界でも正義と正義のぶつかり合いは存在します。どっちも言ってることは正しいし、求めていることは理解できる。でも分かり合えない、治療方針や予後についてなど。
どうしたらみんな分かり合える社会になるのか、ちょっと考えてみたいと思っちゃいました。
漫画に描かれる正義のぶつかり合い
正義と言えば、アニメが僕はパッと思い浮かびます。
『NARUTO』では、ナルトとサスケの正義が何度も衝突します。二人とも「仲間を守りたい」という価値は同じです。けれど、サスケは「復讐」や「独裁」で守ろうとし、ナルトは「友情」や「対話」で守ろうとしました。価値が同じでも、方法の違いによって正義は激しくぶつかり合ったのです。
『ワンピース』でも、海軍と海賊の正義が対立します。どちらも「人々の幸せ」を掲げますが、海軍は「秩序を守る」ことで幸せを実現しようとし、海賊は「自由を求める」ことで幸せを目指す。未来の理想像が違うだけで、正義は敵対するのです。
方法を決める3つの要素
正義を考えるとき、次の三つの要素が方法を大きく左右します。
- 優先順位 ― 平和を優先するのか、自由を優先するのか。個人か国家か。
- 守る範囲 ― 家族だけを守るのか、国民全体を守るのか、人類を守るのか。
- 未来イメージ ― 秩序ある未来か、自由な未来か、安定か、変化か。
価値は同じでも、この三つの要素がズレることで方法が異なり、正義が衝突します。
医療における正義の衝突
延命治療と安楽死
- 価値:命を守ること、本人の尊厳を守ること。
- 方法:延命治療で生かし続ける/安楽死で苦痛から解放する。
- 方法を決める要素:
- 優先順位:命の長さを最優先するか、尊厳ある最期を優先するか。
- 守る範囲:本人の意思を尊重するか、家族の願いを優先するか。
- 未来イメージ:延命による「生の継続」か、安楽死による「苦しみのない未来」か。
ワクチン推進と反対
- 価値:人々の健康を守ること。
- 方法:ワクチンを推進して集団免疫をつくる/リスクを避けて接種しない自由を尊重する。
- 方法を決める要素:
- 優先順位:集団全体の安全か、個人の自由か。
- 守る範囲:社会全体を守るのか、家族や自分だけを守るのか。
- 未来イメージ:感染症が抑えられた社会か、副反応リスクを避けた社会か。
👉 医療の正義は「命を守る」「健康を守る」という価値は共通しているのに、方法を決める要素のズレで対立が生まれる。
食における正義の衝突
- 価値:健康を守る、環境を守る、命を守る。
- 方法:
- オーガニック食品を選ぶことで農薬から体や自然を守る。
- ベジタリアンとなり動物の命や地球環境を守る。
- 逆に、大量生産や畜産によって「安価で効率的に栄養を届ける」。
- 方法を決める要素:
- 優先順位:健康か、環境か、安さか。
- 守る範囲:自分と家族か、地球全体か、動物の命まで含むのか。
- 未来イメージ:自然循環型の社会か、効率的に供給される社会か。
👉 食における正義も「命や環境を守る」という価値は同じなのに、方法の選び方で立場が分かれる。
社会に広がる正義 ― デモの意義とリスク
- 価値:民主主義を守りたい、環境を守りたい、動物の命を守りたい。
- 方法:街頭に立ち声を上げる/SNSで発信する/制度を変えるよう訴える。
- 方法を決める要素:
- 優先順位:自分たちの主張を通すことか、社会全体との対話か。
- 守る範囲:同じ立場の仲間だけか、社会全体を巻き込むか。
- 未来イメージ:即時に変革する社会か、時間をかけて合意を形成する社会か。
👉 デモは「見えない価値を社会に広げる」役割もあれば、「他の価値を否定する狭さ」によって分断を生むリスクもある。
漫画のバトルと現実の争いの違い
漫画では、バトルは物語を動かすための表現手段です。キャラクターの正義や信念をぶつけ合い、成長を描きます。
しかし現実では、争いを必ずしも「暴力」や「戦争」として行う必要はありません。言葉での対話、法律や制度による調整、経済的な競争…。どのレベルで衝突するかを選ぶ余地があります。
正義は「ぶつかること」そのものではなく、「どうぶつけるか」を探るプロセスなのです。
正義はプロセスであり、医療の現場からまちへ
正義は「価値 × 方法」で成り立っています。
価値は重なりやすいけれど、方法を決める要素のズレが衝突を生む。
だから正義は「固定された答え」ではなく、「探り続けるプロセス」なのだと思います。
漫画の物語も、医療の現場も、食卓の選択も、社会運動も、すべては正義がぶつかり、再定義される場です。
そして、私自身が取り組んでいる「まちのかかりつけナース」や地域活動団体「Muku」も、この正義のプロセスの一つです。
- 価値:人がまちの中で安心して生きられること。誰もが自分の命や暮らしを大切にできること。
- 方法:血圧測定やカルテづくり、健康相談、地域の人と人をつなぐこと。
- 方法を決める要素:
- 優先順位:病気になってからではなく、未病の段階で暮らしを支える。
- 守る範囲:患者だけでなく、家族、地域全体を含める。
- 未来イメージ:医療が病院の中に閉じず、まちに開かれていく社会。
「Muku」が掲げる「まちの自然治癒力を最大化する」というビジョンもまた、正義の形の一つです。
命や健康という普遍的な価値を守るために、私たちはどんな方法を選ぶのか。地域と共に考え、試行錯誤することこそ、医療としての正義なのだと思います。
争いは必要ない、視野を広く取れば対立は不要なことに気が付く。
想いが違うから一緒に行動しないとか、価値が違うから別々に行動するとか、本当に価値観は違うのか?
広く捉えた時に、自分が大切にしたい想いを定義しなおしたときに、実は同じ価値観のもと方法とその要素がちょっとズレているだけなのかもしれない。
だからこそ横のつながりとして大切にして、自分の求める正義を求めていくことが広く地域を、世界を守る行動につながると信じています。